序章

むかしむかし、ヘンゼルとグレーテルという兄妹がおりました。
 お菓子の家に迷いこんだ二人は、恐ろしい魔女につかまってしまいます。
 ヘンゼルは檻の中で泣きくらし、グレーテルは小間使いとして魔法のお菓子をつくる手伝いをしておりました。
 時がたち、グレーテルが魔女を退治して、ヘンゼルを解放しました。
「これからどうしようか、グレーテル」
「お家にもどりましょう、お兄ちゃん」
「だめだよ。僕たちはお父さんとお母さんにすてられたんだ」
「それはみんなのご飯がなかったからでしょう? 今なら大丈夫よ」
「でも、まだききん・・・のままかもしれないし――」
「大丈夫」
 グレーテルは無邪気に笑って言いました。

「わたしね、『魔法のお菓子のつくり方』を覚えたの」

 そうして二人は、ほんの少しの小麦から大量のお菓子を作り、飢饉にあえぐ村の人々を救いました。
 やがてお菓子職人――練甘術師がふえると、その村も町へ都市へと成長し、ついには一つの国家として独立したのでありました。
 めでたしめでたし。


 ……でも、ちょっと待ってください。
 もしも、生まれてからずうっとお菓子だけを食べていたならば。
 いったいどうやって美しく健康的な肉体を維持しているのでしょうか?
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