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 レゼは慣れた様子で神殿の庭を歩いていく。
 その後ろをスウとデュノがついていった。手を離すと言葉が通じなくなってしまうため、二人はどこにいても手を繋いでいる。
 神殿の周りは、道を除いたほとんどが花壇になっている。花壇と言っても、不入の森にあった花畑とほとんど変わりはない。あらゆる種類の花が自然のままに咲いているのだ。細かく整列をさせたりはせず、無造作に種を撒いた結果なのだろう。
 ただ一つ違いがあるとすれば、どこまでも青い花のみだった森と違い、神殿には濃淡入り乱れた全ての色が揃っていること。それらの花々が好きな方を向いて咲き乱れる様子は、子供が使った絵の具のパレットのようだ。それでも配色を考えてか、白い花の割合が多いように思う。
 花の間を引かれた小道を、神官達や参拝の人々が歩いている。
 森を出るまでデュノ達以外の人に会っていなかったスウは、この世界の人々にとって髪の色は人種を示すものではないということを知り、とても驚いて、納得した。
 デュノ曰く、髪色が遺伝することは多いけれど絶対というわけではない。赤毛の親から緑髪の子供が生まれることもあるし、逆も有り得る。彼の父親は黒髪で母親は銀髪。その子が灰色というのは遺伝的に見ると有り得ないことだったが、この世界では別に驚くことではないらしい。ただ、灰髪自体が珍しいと彼は言った。
 また、この世界において金髪と銀髪は特別珍しいものらしく、女性にしか現れないうえ、決して遺伝はしないらしい。特別強い魔力を持つため、彼女らは日の民、月の民と呼ばれる。月の女神を敬うアーゼンでは月の民を、太陽の女神を信仰する隣国では日の民を国王の后とする風習もあり、宗教的対立から髪色一つで重要な国際問題になっているのだとか。
 今、辺りをざっと見渡しても、赤、青、黄色、緑、橙、桃色の人々が庭を歩いている。彼らは特別奇異の目で見られることもなく、また互いに髪色を意識していないようだった。若い人はともかくご老人までそうなのだから、スウのいた世界ではまず有り得ないことだ。
 彼らは皆この国特有の着物に似た装束を着ている。それぞれ落ち着いた配色を施した衣の上に、生花の飾りをつけていた。髪にも添えているのだが、どうもこの習慣は男女を問わないらしい。
 赤い花をかんざしのように差した女性の隣を、装束に生花のコサージュをあしらった男性が歩いている。花壇の花を摘む子供達の頭には自分で作ったと思われる花冠が乗っていた。花飾りをつけていないのは神官達くらいのもので、彼らは花の代わりに銀細工をあしらったアクセサリーをつけていた。
 参拝者は皆、デュノに気付くと遠巻きに頭を下げ、レゼを見ては気軽に手を振る。
 無反応でやり過ごすデュノと違って、レゼは気軽に応じていた。挨拶には挨拶を返し、子供に花を貰えば頭を撫でた。お兄さん役が板についている。子供相手でも女の子には丁寧だった。
「スウ、ちょっとこっち」
 レゼが手招きをした。
 彼は子供に貰った花をスウの髪に添えると、なにやらしっくりこない様子で考え込む。
「うーん……。白髪ってのは扱いにくいな。少しも灰が混ざってないから、花の色味が強く出過ぎてしまう」
「そう? 薄緋が白に映えて綺麗だと思うけど。もう少し落ち着いた色にしたら? 水色とか」
 デュノが手短な花を摘んで髪に差す。
「いや、いっそ明るく黄が似合うかもしれない」
「濃いのはどうかな。濃紫に濃緑……」
 二人は花を摘んでは飾り、飾っては摘む。見る見るうちに飾り立てられてしまった。
 二人とも手先が器用なのか、零れ落ちそうな花にうまく蔓を這わせて髪を巻き取っている。そのうち髪だけでは飽き足らず、服まで飾りはじめた。
 スウの装束はデュノが用意させた物だ。不思議な光沢のある布地は素人目に見ても高価だと分かる。貰い物ゆえに、染みをつけてしまったらどうしようとスウは内心気が気ではない。けれど、もしつけたとしても気にせず新しい物を用意しそうな二人ではある。
 好きなだけ花を盛り付けると、二人は少し離れて、風景を眺めるように彼女を見た。
「なんか凄いことになったね」
「満足、満足。これで上から薄い灰の透紗を掛ければ完璧だな」
「なるほど、それで色味を落とせるね。けど、そう言うレゼも今日の服、ちょっと派手だよ」
「あ、やっぱ? もう一段灰を含ませるべきだったな」
 先程の言い回しにも出てきたが、灰とは灰色のことだろうか。
 デュノは派手だと言うが、レゼはスウの目から見ると十分落ち着いた配色の服装をしていた。上品な臙脂に合わせた渋い紫のかさね が巧く調和している。
 周りの人々を見ても比較的落ち着いた装束をしていることから、花や髪色がはっきりした色をしている分、服装は地味にもってくるのがこの国の風潮なのかもしれない。
 髪に手を置くと花びらの柔らかい感触に触れる。自分が今、どうなっているのか知りたいと思った。
 ふと見ると、いつのまにか茶器を持った神官が困った様子で立っていた。どうも気を利かせてお茶を淹れてきたようだが、兄弟がいつまでも遊んでいたため小道を塞ぎ、立ち往生してしまったようだ。
 スウがとりあえず受け取ると、神官は不思議な袖の振り方をして去っていった。時々見かけるあの仕草は何なのだろう。
「もう少し行った先に休める場所があるんだ。行こう」
 そう言ってレゼが茶器を取り上げ、持っていく。
 言葉使いを変えたところで元のところは変わらないものだ。そう思うとおかしくて、彼には秘密でデュノと笑いあった。



 小道を抜けると、花壇を丸くくりぬいた場所があった。木でできた雨よけの下に、机と椅子が備え付けられている。初めから景色を楽しむように設計されたのだろう。延々と広がる花々の向こうに神殿が見渡せる。
 木造ながらどこか西洋じみた装飾を持つ白い建築物。こうして外から全貌を眺めたのは初めてだった。
「端から見る分には、この上なくお綺麗なんだがねぇ……」
 レゼは感慨深げに呟いて、急須を傾ける。注がれたお茶は紅茶に似た赤みの強い茶色。この国には茶から緑、黄色や青いお茶まで存在する。
 以前、青いお茶に面白半分で果物を入れたら赤くなった。デュノにはずいぶん驚かれたが、多分リトマス試験紙と同じ要領なんだろう。不思議不思議と騒ぐ少年が可愛かった。
 レゼはお茶を淹れ終わると、ひょいと手を伸ばしてスウの髪から一本の花を抜き取った。花びらを千切ってお茶に浮かべる。
 興味深げに見ていたのがばれたらしい。彼はにやりと笑った。
「エメナの花には毒避けの効果があるんだ」
 思わず花びらを見る。
「あはは、信じた? 気を静める薬草で有名なのにな。実は箱入り娘とか?」
 からからと笑うレゼ。その言葉をそのまま自分の弟に向けて欲しい。
 彼は一人で「ああ、森入りだったっけ」と納得している。その隣でデュノが蜂蜜を大量に入れていた。そろそろ甘味は飽食気味なので、見なかったことにする。
 からかわれたことを忘れようと、知らん顔をしてお茶をすすった。甘い香り。花のものかもしれないが、お茶そのものもやっぱり違う。この国のお茶は種類が豊富らしく、飲む度にまったく違う味がした。
「それでちょっと聞きたいんだが、スウは宿詞について何か知らないか?」
 唐突な問いかけにスウは目を白黒させる。
 宿詞といえば国王だけが使うことができる魔法のはず。それをどうして自分に聞くのだろう。
「あ」
 知るわけがないと答えるより早く、デュノが詰問気味に口を挟んだ。
「まさかレゼ、それが知りたくて僕に協力したの?」
「いや、待て。落ち着け。もちろん俺は親切心からだな……」
 慌てる兄とそれを半眼で見る弟。
 珍しく、デュノが本気で怒った。
「最低。僕、レゼのこと見損なったよ」
「だから待てっつってんだろ。大体、お前が不入の森に親父の日記を忘れてきたのが悪い。大事な手掛かりが見事燃えカスじゃねぇか」
「あの時は僕も大変だったんだよ!」
「そのせいで俺が今大変じゃあ!」
 仲良く喧嘩する二人。それにしても、デュノは話せば話すほどレゼのことを兄として扱っていないような気がする。そういうお年頃なんだろうか。
 スウは会話の合間を縫ってデュノの手を掴む。
 ――あのね、何のことだか分からないんだけど……。
 デュノが不機嫌そうに兄へ通訳した。
「スウが言ってる意味が分からないって言ってるよ」
「ああ、そうか。すまん。今説明するから」
 レゼは宿詞が誰にでも使用可能な技術であったこと、その技術は白の賢者がもたらしたことを簡潔に述べた。
「初代の白の賢者が宿詞を与えたんなら、スウも何か知ってるかもしれないと思ってさ」
 宿詞が遺伝ではなく努力によって授かるものだとしたら、レゼは国王が戻らない限り、宿詞を得ることができなということか。それなら知りたいと思って当たり前だ。
 スウは内容をよく反芻してから、首を振る。
 自分は魔法すらない世界から来たのだ。おそらく、その賢者とは来た場所が違うのだろう。
 レゼはそれを見て、そうかと一言呟いた。頷きが無表情。
 誰かの期待に添えないというのは、自分のせいでなくても気持ちが沈む。
「まあ、ふりだしに戻っただけだ。スウが気にすることはないから」
 レゼは明るく言い切ると、繋いだままの二人の手を見て、なんとも言いがたい表情をした。
「で、俺が今日ここに来たのは今の話だけじゃなくてさ」
 少し声が低い。彼は溜息をつくとデュノの方を向いた。
「スウを城で預かりたいと思うんだ」
「何で」
 デュノが顔を強張らせた。スウの手をきつく握り返す。
「もちろん悪いようにはしない。言葉が通じないのは大変だろうが……」
「だから、何でって聞いてるでしょ!」
 少年の語気は強い。
 レゼは溜息をつきながら、品定めをするようにデュノを見遣った。
「だってさぁ。お前は司祭の身でもあるし、こう……」
 言葉を詰まらせて、言いづらそうに眉根を寄せる。
「女の子を囲うには、ちょっと早過ぎないか」
 スウは危うくお茶を噴き出しかけた。気を静めようと一口含んだのが敗因だ。
 そうか、やっぱりそう見えるのか。子供相手だから自分としては安全圏にいるつもりだったが、そんなことはなかったらしい。
 「何それ」というデュノの怪訝そうな問いを無視して、レゼがさも同意だとスウへ身を乗り出してきた。
「思うだろ? 思うよな!? いや俺もありえないと思うんだが、世間はそうでもないんだよ。な? 本当、助けると思ってきてくれないか? 城なら辛気臭い神殿と違って夜会もあるし、ここよりは楽しい。絶対楽しい。丁度今なら異国から有名な楽団が来てるから、珍しい音楽も聴けますよ?」
 後半、本性出た。
 レゼはスウの手を取って優雅に微笑んでいる。
 この絵だけを見れば、つい頷いてしまいかねない。けれど今更そんな風にされても、スウには駅前のキャッチとしか思えなかった。
 除け者にされたのが不服だったのか、デュノがレゼを押しやって抗議する。
「駄目駄目! レゼの所なんか行ったら、毎日気持ち悪いことばっかり言われるに決まってるよ! 変な官僚はいるし、部屋はカラクリだし。ね、行かないよね?」
 デュノが眉毛をハの字にして顔をのぞきこんでくる。カラクリと聞いて、ちょっと見てみたいと思ったのは秘密だ。
 とりあえず、レゼには何か裏があるのだろうということは分かった。彼の会話の持っていき方はスウの慣れ親しんだタイプのものだ。遠回りに示唆して促す。賢明そうに見えて、非常に臆病な会話の仕方だった。
 対するデュノはただ反対しているだけ。彼の性格からして、とにかくそばにいて欲しいのだろうということが分かる。デュノはきっと、寂しいのだ。
 その寂しさは、スウにもよく分かる。
「来るよな?」
「行かないよね?」
 同時に言われる。困った。
 二人揃って真面目な顔をして、こちらを見ている。こうしていると、本当に顔の似た兄弟だ。年子というわけでもないのに。
 レゼと目が合った。きらりと期待を込めて見詰めてくる目元が、楽しんでいる。ふざけている。
 とっさに理解して、笑みが零れた。
 ――可愛いね。
「何が?」
 思わず呟いた一言をデュノが聞き咎めた。
 ――二人共だよ。
 鼻白んだデュノに、レゼが問う。
「何だって?」
「可愛いって」
「何が」
「僕らが」
 レゼは鼻白むを通り越して絶句した。それから盛大に溜息をつく。肩を落として降伏宣言。
「あのなあ、スウ。せめてもうちょっと焦ってくれないと、面白くないだろ?」
「面白いとかいう話なの」
 デュノがまたも半眼で兄を見遣る。
 そんな少年の態度などどこ吹く風でレゼは茶をすする。
「ま、俺も駄目元で言ってみただけだしな。二人があまりにイチャイチャしてたから、兄としてちょっと釘を刺しておきたかったわけで。どうせ、コイツが馬鹿だから間に受けて反対してくるだろうしさ。スウももうちょっとおろおろするかなーって思ってた。ちくしょう、そうきたか」
 レゼは恨めしげに爪を噛む。
 デュノは呆れ返って、なんでそういうカマをかけるのと呟く。
「じゃあ、スウは神殿にいるんだね?」
「どうせお前の馬鹿っぷりに呆れて出てくるのがオチだと思うけど。その時はどうぞ気兼ねなく私の元にいらして下さい、賢者様」
 そう言ってレゼはスウの手を取り、甲に口付ける。その際ちらりとこちらを見上げた。
 いい加減慣れてきたので、微笑んで対応してみせる。
「ちっ、敵わねぇな」
 青年の呟きと苦笑を、スウは見逃さなかった。



 花壇の小道から神殿前の広い道へ出ると、先を歩いていたレックスが急に足を止めた。不思議と背筋が伸びたように思える。また女の子でも見つけたのかと思ったが、それにしては雰囲気が張り詰めていた。
 彼はこちらに背を向けたまま丁寧に袖を振る。
「お久しぶりです、伯母上。お元気そうでなにより……」
 当たり障りのない言葉。心の篭らない声。
 レゼの言葉を聞いてデュノが手を握り締める。少年は唇を噛み締めて青い顔をしていた。心なしかにじり下がった気がする。
 伯母上というからには彼らの血縁者か親戚。ぜひとも顔を見てみたかったけれど、目の前にあるのはレゼの背中。
 だが、声には聞き覚えがあった。
「殿下。いらしていたならお顔ぐらいお見せになってはいかがかしら。機会はいくらでもあったでしょうに」
 柔らかな声色の下に、無感動な冷たさが潜んでいる。裏側に持った暗闇が見え隠れするこの声は。
 聖女が、彼らの伯母だったのか。
 王位継承者以外の王族が神殿へ渡されるというのなら、彼女が彼らの血縁であることにも、わずか四十過ぎで絶大な権力を手中にしていることにも納得がいく。
 スウは驚きよりも無気力感に満たされた。
 身内ならなぜ、デュノにあんな仕打ちをする。
「私も多忙でしてね。そうそう拝顔に参ることができませんゆえ」
「ご冗談を。先日の件は司祭殿に何事もなかったから良かったようなものの、少々おふざけが過ぎるのではございませんこと?」
「あれは実践訓練ですよ。最近、うちの兵達がずいぶん鈍っているようでしたので、神殿兵と共同訓練を行ったのです。通達を出したでしょう?」
「そのようなもの、うかがっておりませんわ」
「そうですか。使いの者が闇討ちにでもあったのかもしれませんね。近頃は物騒ですので」
 感情を込めず、ぴしゃりと言い放つレゼ。
 聖女は少し黙る。その沈黙が意図するものをスウには推し量ることができなかった。
「なるほど。貴方も忙しいのでしょう、不備は問いません」
 その後に彼女は明らかにレゼを対象としない発言をした。
「……しかし、それにしても白の賢者殿はずいぶんお暇なようですわね。日の出ている間中、司祭殿の元へ入り浸りで。まるで離れては生きていけないかのようですわ」
 スウの心臓がすくみ上がるのと同時、頭が熱くなる。血が上るとは、こういうことも指すのだろうか。
 レゼがスウを隠すように立ち位置を変えた。
「伯母上」
「ご一緒を望まれるのであるのなら、夜半も共になさったらよろしいとは思われませんか? ……できるのであれば、ですが」
「伯母上」
 二度目は青年が強く出る。
 スウは少しだけ、先程のレゼが何を懸念していたのか理解した。
 からかわれているのだと思って軽く受け流してしまった。そして彼もそれに合わせてくれた。もしかしたら、考えるまでもないと思ったと取られたのかもしれない。
 たった今気づいた。この場所はいわば、敵の本陣。気を抜けばすぐにでも刺し殺されてしまうような所だ。
 でも、だからこそ、少年のそばを離れてはいけないと思う。
 スウの耳に、くすりと吐息に似た笑みが届いた。
「長居が過ぎたようです。それでは、わたくしはこれで」
 数人の従者を連れて、聖女が去っていく。
 彼女の姿が完全に神殿へ消えた後、レゼが大きく息をついて緊張を解いた。
「あんのクソババア。いつか討ち取ってやる」
「レゼ、嘘をつく気があるなら、闇討ちってちょっと……」
 少年が横槍を入れる。言葉に反してデュノの表情は硬い。
 レゼは振り向き様に鼻で笑い、少年を見下ろした。
「わざとだよ、わざと! 俺は正面から喧嘩売ってんの。相手からボロは出してこないけどな」
「頼むから無茶はしないでよね」
「誰に言ってんだか。っかーむかつく。無駄に時間食っちまった」
 レゼは懐から懐中時計を取りだし、うげ、とうめく。
「やばい! 時間過ぎてるじゃねぇか、部下に殺されるっ。じゃあな、俺ももう行くから……」
 言いかけてレゼがスウに気付いた。困ったような笑い方をする。
「気にしない方がいい。聖女は嫌味言うのが趣味だからさ。まあ、あんな提案しといてなんだけど、スウがこのバカのお守りをしてくれるのは、俺としても嬉しいんだ」
 しまった。完全に見透かされた。
 慌てて笑顔を取り繕う。口元を持ち上げるのが辛い。自分の顔がどれだけ強張っていたのか、よく分かった。
「ちょっとレゼ、僕のことバカって言わないでよ」
 デュノが不機嫌になっても、レゼはお構いなし。
「バカすぎる弟を頼んだよ。あんた、意外とイイ性格してそうだしな」
 にやりと笑ってデュノのおでこを弾き、レゼはふと我に返ったような顔をした。
「そうだデュノ。もうすぐフェイが帰ってくるぞ」
「ほんと!?」
 デュノの表情がぱっと明るくなる。
 フェイ? 知らない名前だ。
 喜んでいる様子から親しい友人だと見当をつけた。少年にも再会を喜べる友達がいたのかと、少し安心する。
「ああ、五日前に大河を渡ったって報告が入ったからな。城下での目撃情報はないから、明日辺りに着くんじゃないか」
「やった! スウ、旅の話がいっぱい聞けるよ。それにしても、レゼの情報網って一体どうなってるの?」
「ははは、それは国家機密だな」
 レゼは軽く笑う。うまい笑い方だ。豪快にみせておきながら、付け入る隙がない。
 青年の後ろ姿を見送ると、二人で顔を見合わせた。
 本当に、秘密の多い国だ。
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