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 突然響いた扉の軋む音に、心臓がすくみあがった。三人揃って振り向く。
「わっ、なんだ? 怖い顔して」
 くすんだベージュの布を頭からすっぽりと被った不審人物が、半開きの扉から驚いた顔を覗かせていた。普通、こんな格好をした相手がいきなり部屋に入ってきたら、こちらの方が驚くはずだ。けれど三人の異様な気配に気圧されて、今は彼の方が怯んでいる。
「辛気臭いな。葬式みたいだぞ? ――ほらよ」
 レゼは被っていた布を脱ぐと無造作に丸め、投げ捨てた。その先で無防備に佇んでいたのは、弟のデュノ。
 少年は顔面で布を受け止めて、くぐもった非難の声をあげる。
「ちょっと、いきなり何するのさ! ……あれ?」
 とっさに投げ返そうとした少年。けれどカサリという紙の感触に手を止めて、布を探る。
「何これ。母さんから?」
 出てきたのは、厚い紙で作られた一枚の封筒。銀の装飾と、手書きと思われる飾り文字が、見るからに普通の手紙とは一線を隔していた。
「そ。明日の祭りの外出許可書」
 レゼは瞳を意味ありげな笑みに細めると、意気揚々と少年から封筒をひったくった。封を開けて上質そうな厚手の紙を取り出し、こちらへ向けて広げてみせる。
 許可書にはアーゼン語がびっしりと書かれた下に、走り書きでサインが二つ記されている。一つは美しいアーゼン語で、もう一つはミミズが苦しみのたくったような文字で。こちらはどこかで見た覚えがあるが、アーゼン語でないことは確かだ。
「『デュノ=アーゼン。貴殿にトコユメの大祭への臨場を求め、ここに月下の儀式の賜暇を認める。トアナ=アーゼン、フィルフレイア=アーゼン』」
 流暢に証書を読み終えると、レゼはきっちりと折りたたみ、少年へ差し出した。
 デュノは一瞬、怯むようにそれを見て、素早く手に取った。黙って何度も読み返し、動揺とわずかな尊敬を含めた視線を兄へ送る。
「レゼ、これ、どうやって……?」
 青年はいたずらっ子のような目元を軽く伏せ、道化じみた動きで肩をすくめた。
「どうって、たまたま運が良かったんだよ。母さんがいきなり帰ってきて、たまにはお前に休みをやれってさ。本当は色んな手続きが要ったから、間に合わないくらいだったんだけど……そこはこう、色々と」
 言葉尻をあえて濁して、あさっての方へ白々しい笑みを向けるレゼ。言いたくないことが色々あるらしい。
 彼はあえて触れなかったが、デュノが驚いた理由は聖女の著名までついていたことだろう。スウでさえ、その部分を読み上げられたときは耳を疑った。あの聖女が名を使わせたとは。
 いったい、彼はどんな圧力を使ったのか。彼女に弱みがあるならぜひとも知りたい。
 それとも、スウが思っているよりもずっと、レゼは神殿に影響力を持っているのだろうか。表には見えない密かな重圧をかけられるくらいには。
 自然と集まる視線を避けるように、レゼは部屋の中央に置かれたテーブルへ向かった。アーゼン特有の足の長い椅子に腰掛け、軽く足を組む。和装に似た衣装や不思議な灰色の髪、紺の瞳があいまって、その一枚絵は空想の産物のようだ。
 デュノが後を追ってテーブルへつくと、残りの二人もおのずからそれに従う。
 少年は居心地悪げに兄の向かい座っていた。何かを言わねばならないとは分かっているらしく、窺うような視線を兄へ送っている。けれど何を言うべきなのか自分で気付いていないようだ。もやもやとした感情の塊のようなものが、少年の態度に見られた。
 しかもたちの悪いことに、レゼはあえてそれに気付かない振りをしていた。少年と視線を合わさず、テーブルに飾られた花を毟って遊んでいる。
 しょうがない子。
 スウは隣に座ったデュノの手の甲に自分の手を重ねると、耳元で助言をささやいた。簡単な計算問題の答えを教えられた子供のように、少年は驚きでもってそれを受け止める。そしてすぐに言うかと思えば、怖気づいたように口篭ってしまった。スウに時計を貰ったときは確かにできたのに、兄に対してはずいぶんと難しいことらしい。
 デュノは封筒を握り締めると、俯きがちに口をもごもごと動かした。
「レゼ、ええと、その……」
 珍しく不明瞭な声。少年の顔がだんだんと下を向いていく。すると、灰の前髪で目元が隠れてしまった。さらりとした横髪が頬を覆う。
 レゼはその髪をいつものようにかき混ぜようとして、ふと手を止める。苦笑を浮かべると、おもむろに手を下ろした。
「礼なら、母さんに言えな」
「……うん」
 それきりデュノは口を閉ざしてしまう。うっすらと紅潮した頬が、内心を見透かされた気恥ずかしさを語っていた。
 兄弟っていいなぁ。
 一人っ子の自分には望んでもできないことだ。
 スウは気付かず笑みを浮かべて、もう一度少年へ囁きかける。
 ――お祭り、一緒に行こうね。
 その途端、デュノがはじかれたように顔を上げた。頬がいっそう上気する。
「うん、行こう! トコユメの大祭っていうのはね、皆でお面を付けて、一晩中騒いで遊ぶんだ。夜に行われるから、僕、司祭になってから一度も出たことがないんだよ。祭りの日は月の力が一番強くなるから、儀式を止めるわけにはいかなくて。だから……本当に、いいのかな」
 矢継ぎ早な説明が、最後の最後で急下降する。
 デュノが不安げに俯く。まるで、明日から学校へ行かなくてもいいと言われた子供のように。少年にはそれほど深くあの儀式が刻まれているのだ。
「ばか。お前がそんなんでどうするんだよ」
「そうですよ。本来なら聖俗関係なく参加するべきものでしょう。あなたが気に病む必要はありません」
 フェイが不思議とやわらかい印象のする低い声ではっきりと言い切ると、誰もが頷いた。彼がそう言ってくれると、なぜだかとても安心できる。
「うん、そうだね。フェイ、今度は僕にもお菓子を買ってね」
 しかしフェイは申し訳なさそうに頭をかく。
「ええと実は、私は当日、神殿の警備を任されていまして……」
「ええーっ、そんなぁ」
 してもいない約束を反故にされたがごとく、デュノが非難の声をあげる。
「なんだよデュノ。俺の付き添いじゃ不満なのか?」
 腕を組み、にやにや笑いを浮かべて横槍を入れるレゼに、デュノが思い切り顔をしかめた。
「うへぇ、レゼがついてくるの?」
「うへぇとはなんだうへぇとは。優しいお兄様が城下を隅々まで案内してやろうっていうのに」
「レゼ、絶対楽しんでるでしょ」
「祭りが楽しみなのは当たり前だろう。な、スウ!」
 レゼはカラカラと笑いながら彼女へ目配せした。彼の紺色の瞳は裏表含めて楽しげに輝いている。絶対、祭りに乗じて二人を茶化すつもりだ。
 スウは久々に確信犯の笑みを見た。



「で、レゼ。スウの方を忘れてない?」
 デュノが抜け目のない声色で促す。レゼに城で賢者に関する情報を集めてもらうよう、頼んでいたのだ。
「あー……。忘れちゃいなかったんだけどさぁ」
「だめだった?」
「いや、そういうわけでは」
 レゼは懐からメモのような薄紙を取り出し、机の上を滑らせてこちらへ差し出した。渋々といった態度に、あまり収穫は期待できそうにない。
 少年が慌てて身を乗り出し、それを掴む。
「ちゃんと調べてくれてたんだ」
 制約の多いデュノが調べられる範囲など、たかが知れている。それに比べ、レゼは情報を仕入れることにかけては天下一品だ。宿詞を持たない彼は、蜘蛛の巣のように張り巡らせた情報網を総括し、管理することでその地位に相応しい能力を得ている。誰に何を聞けば答えが得られるのかを知っているのだ。
「まあ、麗しの賢者様のためだし? しっかしなー……」
 けれど、その能力は主に現在の把握や未来の予測のために使われる。彼の仕事を思えば、それは当たり前のことだった。だから、ネットワークの方向として、過去を探るものはそれほど揃っていないらしい。
 思うような成果をあげられなかったことは、どうやら彼のプライドにささやかならぬ傷を付けたようだ。レゼは不服そうに口元を歪めた。
 そんな兄を無視し、デュノは喜び勇んで紙面へ視線を滑らせた。けれど、視線がその場で約二秒停止する。
「……何、これ」
 本日二度目の何。
 その言葉を読んでいたのだろう。レゼはそちらを見もせずに高らかとそらんじてみせた。
「『常世とこよの桑をむ蚕 つむぎ紡ぎてを絆し』……何だと思う?」
 何と言われても分かるはずもない。
 彼の意図が読めなかったのはスウだけではなかったらしく、フェイとデュノもぽかんとしている。
「詩の一部、ですか?」
「惜しい。短歌だよ。アーゼン初代国王の妹君の作品だ。歌人としてはあまり知られていないから、専門家でもないかぎり聞いたこともないだろうがな」
「おや、アーゼン初代国王の妹君は実在したのですか。てっきり作り話かと」
「だったら俺らはどこの血筋だっつーの。もともとアーゼンは地方領主だったんだ。それが宿詞を手に入れ、国を興すに至った。伝承だからといって全部が嘘なわけじゃない」
 フェイはそれに小さく頷いてみせ、促すように言葉を投げかけた。
「して、それが白の賢者と何の関わりが?」
 便乗して頷くスウ。昔話をされても、知識のない自分には何のことだか分からない。
「あ、そうか。二人は知らないんだったな」
 レゼは手短にアーゼン王家の伝承を説明した。
 かつて、邪神が初代国王の妹を奪った代償として宿詞を与えた。王は宿詞と月の女神の力を借りることで邪神を倒し、妹を取り戻した。その後、王は宿詞でもって国を興し、娘は女神を祭る神殿の長となったという。
 レゼはその邪神が白の賢者だったと述べた。そう考えれば、スウが宿詞に関する知識を持っていると思われて、森に閉じ込められていたと考えることができると。実際の彼女は宿詞どころか魔法もない世界からやってきたわけだが。
 レゼは目を細めて手元の紙を見遣り、上目気味にこちらを見渡した。
「で、これ、何を歌った歌だと思う?」
 デュノが小鳥じみて首をかしげる。
「蚕のこと?」
「養蚕って素晴らしい……ですか?」
 真面目な顔で天然な回答をするフェイ。
「だよなー、俺もそう思う」
 レゼは半笑いを浮かべて、溜息を一つ。
「それが、白の賢者のことを歌ってるって言うんだぜ? 信じられねぇ」
「賢者の?」
 ぱっと周りの視線が彼に集まる。
 デュノの顔が一瞬で引き締まった。
「誰が」
「国文学の専門家。昨日いきなり、『そういえば殿下って白の賢者が歌になってるって知ってました〜?』とか言ってきやがったんだよ。俺が賢者の情報を集めてるって知ってて、なんでもっと早く言ってこないかなぁ、あいつらは!」
 レゼは苛立ちをそのままに指先で机を叩いた。机を通して伝わる、若干鋭めな振動。
 彼の怒りを感じ取って、スウは居住まいを正した。それから、以前自分を診察した魔法の専門家を思い出す。
 スウの結界をまるで国宝のように見入った老人。彼もまた、一種独特な世界を持った人だった。他の博士も皆あんな感じなのだろうか。城に居るような専門家は、その分野の中でもかなりの地位にある人なのだろう。きっと忙しいのだろうし……。
「アーゼンの学者の方は、自分の専門以外のことにあまり関心を持ちませんからね。教えて頂けただけでも万々歳といったところでしょうか」
 フェイが最も的確にこの国の学者の性質を言い表した。
「で、その変人曰く、この歌が現存する白の賢者に関する記述の中で一番古いんだと。他のはかなり処分されててさ。これはこんな曖昧な書き方だから、気付かれずに残ったんだそうだ」
「僕もいろんな本を読んだけど、歌なんて思いもしなかったよ」
 感嘆に疲れを滲ませて、デュノが椅子にもたれかかる。
「しかし、この蚕というのが賢者を指すとして、それ以外の部分が……。『吾を絆し』……もしや、この方は白の賢者と親しかったのでしょうか?」
 難しい顔をして紙を見詰めていたフェイが、レゼの方へ顔を向ける。暗に自分達のことを言われているような気がして、スウは身を縮めた。
「ああ、おそらくは。学者の話だと彼女の自伝があったらしいんだが、そっちの方は完全に失われてしまっている。でも、いくつかの文献にそれらしい記述があるんだそうだ。俺が思うに、デキてたね」
 フェイがなんともいえない顔をしてこちらを見るので、スウは俯くしかなかった。平然としているデュノがうらやましい。やましいことがないのだから、自分も堂々としていればいいのに。
「その白の賢者は結界を張られる以前に現れたから、自由に話すこともできたし、宿詞の知識を伝えることもできた。それから当たり前だが、強大な魔力も持っていたらしい」
 ――魔力を?
 初耳だ。しかも、なぜ強大だと言えるのだろう。
 とっさに零れた一言を、デュノが不思議そうに拾う。
「? 何か、おかしなことがあった?」
 ――デュノ。私は魔法が使えないし、宿詞も知らない。その人と全然違うよ。そもそも参考になるかどうか……。
 真剣に訴える彼女を、デュノが不思議そうに見詰めた。その目は恐ろしいほど純粋で、ひどく落ち着いていた。
「どうして? スウは魔法を使ったじゃない」
 ――え?
「不入の森で結界を変成するときに。あれは、君の魔法だよ」
 砂漠に清水が浸み込むように、奇妙な感覚が体中を満たした。
 思考が現実と乖離する浮遊感。
 ――それは、ないよ。
 どうして否定してしまったのか、自分でも分からなかった。
 森の結界は彼女の一言に反応した。それは確かだ。なのに、頭の基礎の部分が断固とした否定を繰り返す。魔法なんて使えない。使えるわけがない。……使えてたまるか。
 ――私には飛翔炎なんかないもの。私はただ、デュノの言葉を繰り返しただけ。あれが魔法の呪文だっただけだよ。
 今までにないほど明瞭に言葉が喉元を駆け上がる。でも彼女には、それが見苦しい嘘だと分かっていた。今まで見てきた限り、この世界の人達がそんな魔法の使い方をしているとは思えなかったからだ。魔法は呪文にあるのではない。人の中にある。
 でも、それを認めることは。
 ――私は魔法なんて使えないっ。
 熱を帯びた断言に、デュノが怯んだ。少年は考え込むように視線を床へ落とし、彼女から手を放して頭をかく。それからちらりと兄を見遣り、視線をスウへ戻した。
「そんなはずないよ。言葉は所詮言葉だもの。魔力を媒介してはいるけど、魔法は飛翔炎がなきゃ使えない。君の言葉であれは起こったんだ。それが証拠」
 デュノはらしくない苦笑を浮かべ、視線をスウの瞳から額へとずらす。
「飛翔炎がないとか、そんなの、僕くらいなものだよ」
 さり気なく、けれど自虐じみた言葉を彼女が聞き返すよりも早く、レゼがカツンと靴音を鳴らした。呆れ半分で二人を眺めて頬杖をついていた彼の、目元がついと細くなる。
「何の話をしてるのか分からないが、お前は別に飛翔炎がないわけじゃない。その証拠に、魔力の生成はできるだろう」
「消費も排出もできないけどね」
 嫌に鋭いデュノの指摘。
 つまり、デュノの飛翔炎には何か異常、もしくは欠陥があって、普通のものとは違うということなのだろう。それを無いと言うのはいい過ぎな気もしたが、詳しい知識を持たないスウでは判断がつかなかった。
「で。何を仲良く言い争ってたんだ? ん?」
 半眼で笑みを向けてくるレゼに、二人でたじろぐ。言外でいちゃいちゃしてんなと言われると、いっそう肩身が狭くなってしまう。スウにはそんなつもりなど全くないのに。
 それに対して、デュノは兄の示唆など構いもせずに話題を元へ戻した。
「聞いてよ。スウは魔法が使えるのに、自分には飛翔炎が宿ってないって言うんだ」
 嘆きを含んで訴える少年。
 その軽い調子にスウは安心する。いつものデュノだ。
「あー、それはないな」
 若い魔法使い――レゼは速攻で否定。彼らにしたら、飛翔炎がないということは心臓がないことに等しいらしい。
 その様子を傍観気味に眺めていたフェイが、絶妙な間合いで言葉を挟む。
「ですが」
 遠慮がちに音程を抑えた声色。知らず口元を尖らせていたスウを視線で宥め、微笑みかけてくる。
「彼女が飛翔炎のない世界から来たことを思えば、その発想は納得がいきます。自分は生まれつき魔力を持たなかった、だから今も無いはずだというわけですね」
 柔らかい確認に、スウは頷きを二回繰り返した。全くもってその通りだ。
「でも、飛翔炎とはそういうものではありません。理論上では、後から宿ることもできるのです」
 スウの眉がひそめられる。
「天空を漂う飛翔炎は、未だ飛翔炎の宿っていない胎児を見つけると意思も持たぬうちに入り込み、完全に宿主と同化します。ですから厳密に言えば先天性のものですが、親から与えられたというわけではないのです」
 つまり魔法とは、遺伝的に初めから備わっているわけではなく、後から、しかし生まれる前に身につくものだということか。だとしたら。
「もし、本当に飛翔炎を持たない者がこの世界にいたなら、空を漂う飛翔炎たちが放っておかないでしょう。彼らは一瞬で飛翔炎のない命を嗅ぎ分けます。すぐさま体内に潜り込んで……宿るはずです」
 鳥肌が立った。
 自分自身を抱くように腕を握り締め、背を丸めた。心臓が不自然に脈打つ。背中から血液を抜かれたように体が冷えていく。湧き上がる不快感に口元を強くつぐんだ。
 気付かないうちに別のモノへ作り変えられてしまったような気分だ。今口を開けば、何を言い出すか分からない。そんな醜態を晒したくは、ない。
 さぞ青い顔をしていたことだろう。デュノが隣でおろおろと彼女の袖に触れてみたり、顔を覗き込んだり、やっぱり離れたりしていた。
 そんな二人を青年たちは見守るように黙っていたが、やがてレゼが痺れを切らせた。
「スウは今まで自分で気付かなかったのか? 俺たちは生まれながらにこんなもんだから違和感とかないんだけど、おかしな感覚とか、見た目で変わったところとか、あるんじゃないか? ほら、よく髪の色は飛翔炎によるって言うだろ。厳密には血筋も関わってるんだけどさ」
 髪の、色。
 ――うわぁ。
 とっさに自分の頭髪を掴む。滑らかな手触りは変わっていない。けれど、その色は穢れない純白。この世界へきて、ただ一つ変わったところ。
「ど、どうしたの。スウ?」
 頭を抱えて机に伏したスウへ、デュノが心配げに声をかける。
 ――うん、大丈夫。たぶん、平気。……きっと。
 元気ぶって応えたつもりが、これではまるで病人のうわごとだ。
 仲良く寄り添う二人を机越しに眺めて、視線を交わすのは青年組。
「えーっと、確定?」
「……おそらくは」
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