Missing・Rose
第三部予告
「何を言ってるんだ、デュノ」
振り返った片割れは、当たり前のように告げる。
「彼女は――自分で望んで帰っただろう?」
「……えっ……」
迷いのない瞳を見つめ続けると共に、戸惑いが理解へ変化した。
それは、何よりも自分を理解していると信じていた存在が、赤の他人になる瞬間。
宿詞。
それは彼女が残した呪い。
「スウの……声が聴きたい」
「連れてって」
「僕も行く」
彼女の後を追い、少年は旅立つ。
それは絶望からの逃避だったのかもしれない。
それでも
このまま無為に生き続けることなど出来なかった。
もう一人の不審な同行者は、品定めをするような目つきで少年を見下ろした。
「で、ボンボン?」
「それ、僕のこと?」
「そうさ。お前らのことだ」
鼻で笑うように言い放たれて、少年が鼻白む。
隣に立つ背の高い保護者は、顔を見合わせると困ったように微笑んだ。
花葉色の髪をした少年は、幼さを残す瞳に強い意思を宿す。
「そうです。僕……いえ、私はラフィリスタトゥエルカティル=バズダール。
グルディン帝国バズダール王室の……生き残りです」
「長い。ラフィーでいいだろ」
「嫌ですよそんな女みたいな名前ー!!」
「適当に時間を潰して、帰って来い。それまでにこっちも……色々と片付けておくさ」
そう言って、兄は寂しげに笑った。
「どこに行くの?」
同行する保護者は、少年の浅慮な質問にも気を悪くすることなく答える。
「大樹に知恵を借りようと思っています」
「大樹?」
「この世界でもっとも長く生きているものですよ」
「ふうん……」
――貴様か。
――我が父を殺したのは、貴様か!!
「ちが……僕は」
ただ、会いたかった。
一言、彼女の声が聞ければ良かった。
そのためなら命を懸けても良いと思った。
けれど。
「……僕だって、本当に会えるなんて、思ってなんかないよ」
「僕には……何も出来ないから」
自分を信じられぬが故に。
望みはやがて、変容する。

|