この書によって啓蒙されぬ者たちに告ぐ。今すぐその手に握りしめた権力を捨てよ。もしこれを受け入れなければ、この国の改革は数多の血によって果たされるだろう。 そう、革命だ。 『民主論』作者不詳 第三章 1 「号外!」 暗い夜空に、白い紙が舞い上がった。ひらひらと落ちていく途中、誰かの手がそれを掴む。 紙面には壊滅した酒場の白黒写真と共に、大きくこうあった。 『『民主論』の著者、投獄!』 その下にはとても臨床感のある筆致で、『春啼き梟の会』が白鷲騎士団によって壊滅させられた旨が書き記されていた。 「号外、号外だよ!」 高台に乗った若草色の髪をした男――ツヴェンが、ビラを無造作に掴んで放り投げた。酒場の襲撃から辛くも逃れた彼は、すぐさま仕事場に戻ってこのビラを刷ったのだ。 「『民主論』の著者が捕まった! 賛同者も軒並み、全員だ!」 道行く者皆が足を止め、彼の周りに集った。差し出される手へ無造作にビラが渡っていく。大量の紙が空を舞った。 「なんということか……」 紙面を読んだ者は皆、民主論の著者が幽閉されたことを知り、青ざめた。 「そこまでするのか、国王は」 「この国はいったいどうなってしまうんだ」 「……絶望だ」 ビラを配りながら、ツヴェンが大きな声をあげた。 「そうだ! 道を説く者が反逆者となるのなら、道楽の限りを尽くして国庫を逼迫させている者はいったい何になるんだ! こんなのは間違っている!」 そのとき、民衆の中に紛れた臙脂色の紙の男――ノーストがビラを持つ手を振り上げた。彼もまた逃亡に成功していたのだ。 「そうだ! 国王こそが真の売国奴!!」 ノーストは腕と一緒によく通る声を振りあげる。 「立ち上がれ民衆よ! この国を我らが手に――!!」 熱を帯びた呼びかけに、民衆の雄叫びがこたえた。彼らは拳を振り上げ、言葉にならない音を叫ぶ。 「そうだ!」 「あの国王を潰せ!」 「民を顧みない王などいらん!」 興奮が徐々に広がり、人々に感染していく中で、それは、民衆の中から自然に湧き起こった。 「――『民よ、今こそ革命の時。武器を手に進め』!」 『民主論』の一節を、誰かが叫んだのだ。 それを期に彼らは立ち上がった。 「『民よ、今こそ革命の時。武器を手に進め』!」 「『民よ、今こそ革命の時。武器を手に進め』!」 ある者は鍬を、ある者は鋤を。ある者は鎌、ある者は包丁を手に、城へ向かって集団が突き進む。この街にはこんなに人がいたのかと驚くほど、その数は膨大だった。 「『民よ、今こそ革命の時。武器を手に進め』!」 「『民よ、今こそ革命の時。武器を手に進め』!」 「『民よ、今こそ革命の時。武器を手に進め』!」 暴徒と化した民衆は結界の管理者を襲い、警備する騎士たちを襲い、その数をどんどんと増やしていった。 ツヴェンは暴徒たちを先導しながら、声の限りに叫んだ。 「牢に閉じ込められた我らが同胞を救うのだ! 進め――!」 やがて、それは一つの大きな流れとなり、城へ向かった。 |
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