――いかなる組織でも、ほころびは些末な場所から訪れる。
       国家においても、それは同じだ。
                   『民主論』作者不詳









   序章
 小ぶりの斧が陽光を受けてきらめいた。
 振り下ろされた切っ先が、太い麻紐を切る。ひもはしゅるりと宙を舞い、先頭に結わえられた大きな板のような刃を落とす。
 大地に吸い寄せられるように、分厚い刃が、下で待つ男の首へとむかう。
 肉がちぎれる音がして、噴き出した血が彼女の衣服に染み付いていく。
 同時に、ぽーんと、その首が宙を舞った。
 長く尾を引く朽葉色の髪。

 ――あの人が死んだ。

 次はわたしだろうと、彼女は粛然とした面持ちで、目を伏せた。
 差し出された麻袋を被せられようとした、そのとき。
 色とりどりの髪色が集まる群衆の中に、あの赤がね色を見つけた。
 彼は必死にこちらへ駆けよろうと、人混みを裂いている。その、優しい碧眼と目が合った。
 瞬間、これまでのことが彼女の脳裏を駆け巡った――
copyright (c) 2005- 由島こまこ=和多月かい all rights reserved.