末っ子:いつきの幕間3

 欠けた薔薇窓から差しこむ陽光のなか、いつきの鼻歌がふわふわと漂う。お気に入りのポップスを繰り返しながら、赤いクレヨンできゅっきゅとチューリップを塗っていった。
「ふんふんふふ〜ん ふんふふん〜」
 石床に置かれた城の設計図には、クレヨンでたくさんの花が描きこまれていた。城の外にはチューリップに桜、何かよくわからない青い花。豪快な筆致の花々には蝶がとまっている。今描いている書斎部分には金魚が泳ぎ始めていた。
「ふんふふーん ふん ふんっ」
 図書室には明るい太陽。家のど真ん中には木が生えている。
「ふんふふー……あっ」
 夢中で色塗りをしていたいつきは、その虫食い穴に気付かなかった。ぽっかりと空いた古い虫食い穴は、いつきの描いた木の幹の部分にあった。
「どうしよ、次のページまでぬれちゃった……。まあいっか。このまま穴にしちゃお」
 ぐりぐりと黒い色で塗りつぶし、木のウロのように仕立て上げる。
 そのとき、ぐう、とお腹が鳴った。
 ぴたりとクレヨンを握りこんでいた手が止まり、ぱっと手放した。
「お腹すいた〜」
 言うなり、ごそごそとポシェットをあさって黄色い箱を取り出す。カロリーメイトだ。
「勇おにいちゃんのチョイスって……いっつもびみょ〜」
 パッケージを開けてビスケットにかじりつく。
「うーん……チーズ味かぁ」
 ぱさついた感触に思わず眉をしかめた。こんなことにならなければ今頃またおいしいソーセージにありつけていただろうにと思うと、子供ながら切なさがこみ上げてくる。
「そうだなぁ、すてきなごはんといえばぁ〜」
 片手でビスケットを持ちながら、いつきは思うがままに、食堂部分に豪華な料理の落書きをはじめた。素敵なご飯といえば、そう、フルコースだ。
「おいしいパンにステーキ。うん、やっぱりステーキよね! がっつりいかなきゃ!」
 大きなステーキの絵を描きこんでいると、ふいに近くでゴトリと石の落ちる音がした。
「おにいちゃんたち?」
 ぱっと顔を上げるも、誰もいない。
 けれどその様子は先程と一部だけ違った。
 一階奥の壁が一部はげ、そこから――
「き、きゃあああああ!!」
 ――子供のものと思われる、小柄な人骨がのぞいていたのだ。
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