エピローグ Re:兄貴へ

 あれから春になって、俺は無事大学生になった。
 東京での一人暮らしは思ってたよりハードで、勉強にバイトにとめまぐるしい毎日を送っている。最近は、講義で改めてガウディのすばらしさを実感して、スペイン建築にのめり込んでいる最中だ。
 ……俺も、兄貴と同じように、将来は建築家に――いや、このことは忘れてくれ。
 春海と秋代も高校生だ。春海は看護学生になって、毎日必死に勉強してるし、秋代はさっそく髪を染めて、えらくギャルっぽくなった。ついでにメールの文字まで読みづらくなって、俺と親父は毎日謎の記号を解読させられている。
 いつきは、あいかわらず落書き魔だ。将来は漫画家になるとか言ってるらしいが、どうなることやら。

 あの城でのことは――忘れたくても忘れられない。
 大人たちに何度「夢だった」と言われても、俺の足の骨のヒビは事実だったし、秋代と春海はいまだに雷が鳴り出すとビクビクしている。殺人鬼が鎌を床を擦る「ザーリ、ザーリ」という音が聞こえる気がするんだとか。
 こればっかりは時間が癒してくれるのを待つしかないみたいだ。一番平気そうにしているいつきも、暗い場所で一人になるのを嫌がるようになったし。

 なあ、兄貴。
 東京に出て、何もできない俺に代わって、春海たちを見守ってくれないか。
 ……いや、もうとっくに見守ってくれてるよな。
 「寂しいから一人くらい呼んじゃおう」なんて、暗い考えは、あの夢の城と一緒に砕け散ってくれたんだと、俺は思ってる。
 だから……だから、言うよ。

 兄貴、いつも見守ってくれてありがとう。
 俺たちは、元気だよ。



        ――――このメールアドレスは無効です。User Unknown―――
                                                    〈了〉


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